Page:Iki-no-Kozo.djvu/66

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對他性を表はす點に共通點をもつてゐるが、重要なる相違點は、地味が人性的一般性を公共圈として甘味とは始めより何等關係なく成立してゐるに反して、澁味は異性的特殊性を公共圈として甘味の否定によつて生じたものであるといふ事實である。從つて澁味は地味よりも豐富な過去および現在をもつてゐる。澁味は甘味の否定には相違ないが、その否定は忘却とともに囘想を可能とする否定である。逆說のやうであるが、澁味にはつやがある。

 然らば、澁味および甘味は「いき」とは如何なる關係に立つてゐるか。三者とも異性的特殊存在の樣態である。さうして、甘味を常態と考へて、對他的消極性の方向へ移り行くときに、「い