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ほ及ばない遠い未來の彼方、彫刻家たちの嘗て夢みたよりも更に熱い南の彼方、神々が踊りながら一切の衣裳を恥づる彼地へ(一)』の憧憬、ニイチエのいはゆる flügelbrausende Sehnsucht はドイツ國民の齊しく懷くものである。さうしてこの惱みはやがてまた noumenon の世界の措定として形而上的情調をも取つて來るのである。英語の longing またはフランス語の langueur, soupir, désir などは Sehnsucht の色合の全體を寫し得るものではない。ブートルーは「神祕說の心理」と題する論文のうちで、神祕說に關して『その出發點は精神の定義しがたい一の狀態で、ドイツ語の Sehnsucht がこの狀態をかなり善く言表はしてゐる(二)』と云つてゐるが、卽ち彼はフランス語のうちに Sehnsucht の意味を表現する語のない