Page:Iki-no-Kozo.djvu/151

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思出をそこに込󠄃めた。おお、甘い変身メタモルフオーズよ。誰も知る人は無いが、このきやしやな神󠄃殿は、私が嬉しくも愛した一人のコリントの乙女の數󠄄學的形像だ。この神󠄃殿は彼女獨特の釣合を忠實に現はしてゐるのだ(二一)』。音󠄃樂においても浪漫派󠄄または表現派󠄄の名稱をもつて總括し得る傾向はすべて體驗の形式的客觀化󠄃を目標としてゐる。旣にマシヨオは戀人ペロンヌに向つて『私のものはすべて貴女の感情󠄃で出來た』と吿げてゐる(二二)。またシヨパンは「ヘ」短調󠄃司伴󠄃樂の第二樂章の美しいラルジエツトがコンスタンチア・グラコウスカに對する自分󠄃の感情󠄃を旋律化󠄃したのであることを自ら語つてゐる(二三)。體驗の藝術󠄃的客觀化󠄃は必ずしも意識󠄂的になされることを必要󠄃としない。藝術󠄃的衝動は無意識󠄂的に働く場合も多