Page:Iki-no-Kozo.djvu/120

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き」なものである。鼠色、卽ち灰󠄃色は白から黑に推移する無色感覺の段階である。さうして、色彩󠄃感覺のすべての色調が飽󠄄󠄄和の度を減じた究極は灰󠄃色になつてしまふ。灰󠄃色は飽󠄄和度の減少、卽ち色の淡さそのものを表はしてゐる光覺である。「いき」のうちの「諦󠄂め」を色彩󠄃として表はせば灰󠄃色ほど適󠄃切なものは外にない。それ故に灰󠄃色は江戶時代から深川鼠、銀鼠、藍鼠、漆鼠、紅掛鼠など種々のニユアンスに於て「いき」な色として貴ばれた。もとより色彩󠄃だけを抽象して考へる場合には、灰󠄃色は餘󠄁りに「色氣」がなくて「いき」の媚態を表はし得ないであらう。メフイストの言ふやうに「生」に背いた「理論」の色に過󠄃ぎないかも知れぬ。しかし具體的な模樣に於ては、灰󠄃色は必づ二元性を主張する形