Page:Iki-no-Kozo.djvu/119

提供:Wikisource
このページは校正済みです

媚茶の二本筋を織󠄂たるとを腹合せに縫ひたるを結び、……衣裳の袖口は上着下着ともに松󠄃葉色の樣なる御納󠄃戶の繻子を付け仕立も念を入て申分󠄃なく』といふ描寫がある。このうちに出て來る色彩󠄃は三つの系統に屬してゐる。卽ち、第一に鼠色、第二に褐色系統の黃柄茶と媚茶、第三に靑系統の紺と御納󠄃戶とである。また「春吿鳥」に『御納󠄃戶媚茶鼠色の染分󠄃けにせし、五分󠄃ほどの手綱染の前垂』その他のことを敍した後に『意氣なこしらへで御座いませう』と云つてある。「いき」な色彩󠄃とは先づ灰󠄃色、褐色、靑色の三系統のいづれにか屬するものと考へて差支ないであらう。

 第一に、鼠色は「深川ねずみ辰巳ふう」といはれるやうに「い