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る「美的小(一四)」と異つた方向に赴くものであることはこれによつてもおのづから明白である。

 なほ幾何學的模樣に對して繪畫的模樣なるものは決して「いき」ではない。『金銀にて蝶々を縫󠄃ひし野暮なる半󠄃襟をかけ』と「春吿鳥」にもある。三筋の糸を垂直に場面の上から下まで描き、その側に三筋の柳の枝を垂らし、糸の下部に三味線の撥を添へ、柳の枝には櫻の花󠄄を三つ許り交󠄄へた模樣を見たことがある。描かれた內容自身から、また平󠄃行線の應用から推して「いき」な模樣でありさうであるが、實際の印象は何等「いき」なところのない極めて上品なものであつた。繪畫的模樣はその性質上、二元性をすつきりと言表はすといふ可能性を、幾何學的模樣ほどに