Page:Iki-no-Kozo.djvu/113

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として六角形を示してゐるが、「いき」であるには煩雜に過󠄃ぎる。萬字は垂直線と水平󠄃線との結合した十字形の先端が直角狀に屈折してゐるので複雜な感を與へる。從つて模樣として萬字繫は「いき」ではない。亞字模樣に至つては益󠄃々複雜である。亞字は支那󠄃太古の官服󠄃の模樣として『取臣民背惡向善、亦取合離之義去就之義』と云はれてゐるが、勸善懲惡や合離去就が餘り執拗に象徵化󠄃され過󠄃ぎてゐる。直角的屈折を六囘までもして『兩己相背』いてゐる亞字には、瀟洒なところは微󠄄塵もない。亞字模樣は支那󠄃趣味の惡い方面を代表して、「いき」とは正反對のものである。

 次󠄄に一般に曲線を有する模樣は、すつきりした「いき」の表現