吹雪の産声
松林の梢を鳴らせ、雑木の裸になつた幹の間を吹き抜けて来る冷たい風が、ひつきりなしにこの重病室の硝子窓に突きあたつてゐる。朝の間、空は地を映すかと思はれるほど澄みわたつてゐたが、昼飯を終つた頃から曇り始めて、窓の隙間から吹き込んで来る風は更に冷気を加へて、刃物のやうな鋭さを人々に感じさせてゐた。
午前中に一通り医療をすました病人たちは、それぞれの寝台にもぐり込んで掛蒲団を首まで引つぱつてちぢまつてゐる。暇になつた附添夫たちは、当直の者を一人残して詰所へ引きあげてしまひ、室内にはしんとした静けさだけが残つてゐた。鼻の落ちかかつた病人が時々ぐすぐすと気持の悪い音をたて、冷たい風のため痛みの激しくなつた神経痛の病人が堪へられない呻声をもらしてゐるが、それらは一層静けさを人々の胸にしみわたらせてゐるやうであつた。さつきから、室の中央に出された大きな角火鉢の前で股を拡げ、講談本かなにかを読み耽つてゐた当直の坂下も、やがて一つ大きい欠伸をすると、
「用があつたら、詰所にゐるからな。」
と言ひ残して私の方をちよつと眺め、薄笑ひをして出ていつてしまつた。
矢内の方に視線を移して見ると、寝苦しいのであらう短い呼吸を