Page:Hōbun Nihon Gaishi.pdf/191

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ます。義光の從臣腰秀方こしひでかた、日として勇列につらならざるなし。吉彥秀武よしひこひでたけ、降りて我軍に在り。進みて說く、「宜しく久きを持し、之をくるしましむべし」と。義家之に從ひ、令を下して戰を休む。武衡たけひら、人をして來り言はしめて曰く、「我が軍、事無きを苦しむ。龜次我に健兒龜次けんじかめじといふ者あり。請ふ、一力人を得て之をくらべん」と。乃、鬼武鬼武おにたけといふ者を遣す。勝ちて之を殺す。虜、愧憤きふんして出でゝ戰ふ。

已にして虜、食盡き、羸兵るゐへいを出して來り降らしむ。秀武曰く、「是れ糧をじよするなり。宜しく斬るべし」と。義家又之に從ふ。虜益くるしみ、義光に因りて降を乞ふ。ゆるさず。再、乞ひ、且、義光に、柵中にのぞみて、要結えうけつを爲すを請ふ。義光往かんと欲す。義家之を止む。乃、秀方をして往かしむ。虜、刄をあらはして之を待つ。秀方夷然いぜんたり。武衡之にまかなふに金を以てす。秀方之を郤けて曰く、「我が輩まさ旦暮たんぼ之を分ち取らんとす。汝がまかなひわずらはさゞるなり」と。刀をして出づ。時に天やうやく寒く、軍士とうを恐る。一夜、義家令を軍中に出して曰く、「我が營を燒きて煖を取れ。今夜、虜の柵陷らん。復、營を用ゐざるなり」と。金澤柵陷る黎明れいめいに柵中火起り、家衡のがれ、武衡池水の中にかくる。義家之を獲てめて曰く、「而が父、吾が父に屬して功を樹て。吾が父請ひて官爵をさづけたり。なんぢうらみを以て德に報ずる