す。道廣其の盛嗣なるを知れども問はず。旣にして道廣に隨ひて京師に如き、故の妾家に遊ぶ。妾家之を源氏に吿ぐ。乃、道廣をして之を捕へしむ。道廣、カ士數人を遣し、其浴するを候ひて之を圍む。盛嗣、罵りて曰く、「奴輩、吾遁れんと欲せば、即遁れん。而れども主人を累はすを欲せず」と。出でて縛に就く。賴朝之を面讓して曰く、「盍ぞ壇浦に死せざる」と。對へて曰く、「平氏の胤を擁して、以て舊業を復せんと欲するのみ」と。又問ひて曰く、「汝義盛に依ると聞く、諸ありや」と。盛嗣曰く、「否らず。嚮に京に在りしとき、判官を圖りて遂げず、爾來頗る利刄銳鏃を儲けて、一たび之を將軍の身に試みんと欲するのみ」と。遂に斬らる。
平氏の評外史氏曰く。我が先王の、國を開き給ひしより、僭亂の臣なきに非ざるなり。而れども未だ社稷を危くせんことを謀りし者有らず。獨一の將門ありて、しかも平氏より出づ。豈其宗の大耻に非ずや。然れども能く之を討滅する者も、亦平氏より出でたれば、以て相償ふに足れり。且、將門、一たび誅に伏せしより、後世復神器を覬覦する者なし。彼れ其身を以て、天下の大戒を標せんと謂ふべきなり。