悉く源氏に應ず。乃、箱崎に赴く。範賴、大衆を以て豐後に在りと聞きて、則旋りて壇浦【壇浦】長門に泊す。
壇浦戰源氏の軍、海陸に充塞す。兵艦三千、四面より來り攻む。我れ五百艘あり。知盛船首に立ちて、諸將士に謂て曰く、「勝敗の决、今日にあり。汝が輩、進みて死する有れ。退きて生くるなかれ。心を一にして力を
戮せ、必義經を獲て而して後已まん」と。景淸、盛國等、爭ひて决戰せんことを願ふ。
田口成能田口成能、
潜に欵を敵に通ず。知盛、宗盛に謂て曰く、「士氣
奮へり。獨成能疑ふべし。請ふ、斬りて以て
徇へん」と。聽さず。固く請ふ。宗盛、乃、成能を召して之を
勗めしむ。成能、
唯々す。知盛、刀を
握り宗盛に目す、宗盛、終に斷ずる能はず。已にして大に戰ふ。我が兵
奮擊す。東軍
數郤く。成能、義經に降り、之に吿げて曰く、「平氏、帝を兵船に
徙し、兵を帝船に徙す。敵を誘ひて
夾みて、之を擊たんと欲す」と。義經、乘輿の在る所を知りて、軍を合せて
疾く攻む。知盛、乃、帝船に赴く。諸嬪迎へて狀を問ふ。知盛、大に笑ひ、答へて曰く、「卿等當に東國の男子を
睹るべきのみ」と。一船皆哭く。知盛手づから船中を掃除し、盡く汚穢の物を棄つ。時子、乃、
安德天皇崩御帝を
抱きて相約するに帶を以てし、劔璽を挾み、出でゝ船首に立つ。帝時に