Page:Gunshoruiju27.djvu/397

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まじらはず。只しづかなるを望とし。愁なきをたのしみとす。すべて世の人の住家を作るならひ。かならずしも身の爲に[イ无]せず。或は妻子眷屬のためにつくり。或は親昵朋友のために作る。或主君師匠及財寶馬牛の爲にさへ是を作る。我今身の爲にむすべり。人のために作らず。ゆへいかんとなれば。今の世のならひ。此身のあり樣。ともなふべき人もなく。たのむべきやつこもなし。たとひひろくつくれりとも。誰をかやどし誰をかすへむ。それ人の友[とあイ]る者はとめるをたうとみ。ねんごろなるを先とす。かならずしも情有と直なるとをば愛せず。たゞ糸竹花月を友とせむにはしか[じイ]。人の奴たる者は賞罸[イ无]はなはだしきをかへりみ。恩顧のあつきををもくす。更にはごくみあはれぶといへども。やすく閑なるをばねがはず。唯我身を奴婢とするにはしかず。・もしなすべき事[いかゞ我身を奴婢とするならばイ]あれば。則をのづからみをつかふ。たゆからずしもあらねど。人をしたがへ人をかへりみるより[イ无]やす[しイ]。若ありくべき事あればみづからあゆむ。苦しといへども。馬鞍牛車と心をなやますにはしかず。今一身を分ちて。二の用をなす。手のやつこ足の乘物。よく我心にかなへり。こゝろ[イ无]又身[心イ]のくるしみをし[らイ]ば。くるしむ時はやすめつ。まめなる時はつかふ。つかふとてもたび[かイ]さず。ものうしとても心をうごかす事なし。いかに况やつねにありき常に働くは。是養生成べし。何ぞいたづらにやすみをらん。人を苦しめ[イ无]人を惱ます[イ无]又罪業なり。いかゞ他の力をかるべき。衣食のたぐひ又おなじ。藤の衣麻のふすま。うるにしたがひてはだへをかくし。野べの[をイ]ばな峯のこのみ。纔に命をつぐ計なり。人にまじ[らイ]はざれば。姿を耻る悔もなし。