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にそむきたらん人をば學文せぬ人と申べしとこそ孔子も仰られけれ。北條時政より九代たもちたることもすべて才學のすぐれたることはなかりしにや。わづかに貞觀政要。御式條などいふ物ばかりを覺て。私なくをこなひ侍しほどは。すべて國もしづかに世もめでたぐぞ侍し。わづかなる家のうちをおさめ侍らん事だにもたやすからず。まして日本國の事とりイさたし侍らん程のことはまことに人のきりやうをもよく撰ばるべきにてこそ。それもわたくしといふことだにもさはとなくば。わづらひあるまじきとぞ古き人はいひかきかれたイる。人のうちには諫臣とて常にわろき事を申侍る人の有が何よりもめでたき事にて侍る也。藥はにがけれどもつねには身をたすく。毒はあまけれども後には病をなす。昔のかしこき帝はよき諫言を聞てはその人を拜し給て賞翫せられし也。さりながら此ごろの人はいかによきことなれども我心にたがふ事をばわろしと申。わろきことなれども我心にかなふ事をばよしと申侍るなりべしイ。かやうならんいさめごとをイは。たゞ我心にまかせていふことなれば。すべて國のためもそのしるしあるべからず。誠に私なからん人の君の心ざしもふかく。二心なく申侍らんことのはや。げに世のたすけとなり侍らん。先人をよくこゝろみ給ふべき也。其人の心のうちをもふるまひをも御らむじすまして。今は心やすきほどに思召て後こそ政をもはからはせ。世をもあづけ給べきことなれ。されば堯と申御門の舜をめしいだしては。まづ萬の事をせさせて至極心見られて後天下の政をもあづけ申されし也。聖人猶かくのごとし。ましてよのつねの人のやがてよしあしをごらんじさだむることは有まじ