Page:Gunshoruiju27.djvu/176

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子細なし。たゞ心を花月にしめて。世間の常なき色をくはんじて。こゝろを細くもち物の哀をしりて。こゝろざしをうるはしくせしかば。能も才も人にすぐれて。やさしきかたより。此道の名をとり侍りき。かやうのことをおもひつゞけ侍れば。今の世には。色好といはるべき人。さらに侍まじきやらん。ただわかくさかりなるほどは。なにとなくさまのよくみゆれば。それにのみほこりて。われはと心ひとつにおもふまゝに。こゝろをもたしなまず。能をもほしくせぬなり。目心はづかしからん人にあひては。たちまちみおとされこそせんずらめ。無能ならん人の。としのよるやうをおもひやるに。たゞ狐狸などの年經ぬるにてこそあらんずれ。いかゞすべき〳〵。業平中將の。老らくのこむといふなるといひ。行平中納言の。なみだのたきといづれたかけむとよみ。黑主が。年經ぬる身は老やしぬるとゝ詠じ。小侍從が。八十の年の暮なればとよみたればこそ。花なりし昔もさこそ戀しかりけめと。あはれにもやさしくも聞ゆれ。たゞわかき人の。としのよりたるばかりは。なにほどの思ひやりかは侍べき。夢幻のやうなれども。人の名は宋代にとゞまり侍なり。或はよき佛法の上人。或は賢人聖人。又はすける人などならでは。誰人かながく世にしられて侍ける。人木石にあらずと申ためれど。いたづら人のながらへんは。谷かげの朽木にてこそ侍らんずらめ。たしなむべし。

一人のあまりにはらのあしきは。なによりもあさましき事なり。いかにはらだたしからん時も。まづ初一念をば心をしづめて理非をわきまへふせて。我道理ならんことははらも立べき也。わがひがみたるまゝに。無理にはらだ