Page:Gunshoruiju27.djvu/174

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るに。他人の手をかりて。口筆をだにはかばかしくえせぬもいふがひなきに。あまつさへ女の方への文などの時。人の手をやとひ侍るほどに。忍ぶべきこともあらはになり侍るは。いかゞロおしからぬや。圍碁。象棊。雙六やうのいたづらごとにだにも。その座につらなりて。知侍らぬはつたなくこそ侍めれ。弓箭とりにて的。笠懸。犬追物などたしなむべきことは。云にをよばす。もとよりのことなり。

一智惠も侍り心も賢き人は。ひとをつかふに見え侍なり。人每のならひにて。わが心によしとおもふ人を。万のことに用て。文道に弓箭とりをつかひ。こと葉たらぬ人を使節にし侍り。心とるべき所に鈍なる人を用などするほどに。其ことちがひぬる時。なか〳〵人の一期をうしなふことの侍なり。その道にしたしからむをみて用べき也。曲れるは輪につくり。直なるは轅にせんに。徒なる人は侍まじき也。たとひわが心にちがふ人なりとも。物によりてかならす用べきか。人をにくしとて。我身のために用をかき侍りては。何のとくかあらん。かへす〴〵もはしに申つるごとく。心のまことなからむ人は。なにごとにつけても入眼の侍まじきなり。万能一心など申すも。かやうのことを申やらんとおぼえ侍也。ことさら弓箭とる人は。我心をしづかにして。人のこゝろの底をはかりしりぬれば。第一兵法とも申侍べし。

一尋常しき人は。かならず光源氏の物がたり。淸少納言が枕草子などを。目をとゞめていくかへりも覺え侍べきなり。なによりも人のふるまひ。心のよしあしのたゞずまひををしへたるものなり。それにてをのづから心の有人