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Page:Gunshoruiju18.djvu/651

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 渡りえぬうき世の波におほゝれてかはゐの橋をふむそ危き

 ゆふかけて猶こそきかめほとゝきす手向の聲の高松のみや

北川といふ川はた水落す。法印伊賀の住人におほせつけたるによりて。藤長などいふ者どもきたりて。こしをかたにかけてわたす。

 いかゝせむ此五月雨に北川のあさ瀨ふみ渡る人なかりせは

又服部川をわたりて菩提寺にいたる。是も招提門徒の律院なり。まうけの事は法印申つけて。伊賀のともがらさたせしむとなん。

廿七日。なを菩提寺に逗留す。伊賀のものどもさりがたく抑留する故也。

  菩提樹下古精藍   殿閣徵凉來

  暫借藤床兼瓦枕   齁々一睡味方甘

活計のうちにも故鄕の心は又わすれがたきにや有けむ。

 旅衣きのふも今日もくれはとりあやに戀しきならの古鄉

廿八日。菩提寺をたちて上野小田寺などイニナシ云所をとをる。たやまごえは川の水いまだわたりがたかるベしとて。かさぎどをりにおもむく。嶋の原川といふ河をわたりて。

 嶋の原川せの浪のかち渡りたやまこえをはよそになしつゝ

大河原といふ所は伊賀と山城とのさかひなり。河原の木石さながら前栽などをみるごとくなれば。

 苔むせる岩ねに松は大河原かはらさりけり庭のすさきに

笠置川をば舟にてわたる。ならよりむかへのものきたるによりて。いがのをくりをばこれより返しぬ。歸路をいそぐによりて。山をば見やりたるばかり也。ことさらにこそまうでめとおもひ侍り。きのふけふは雨ふらず。

 えそしらぬみの山過て降し雨の笠置にきては又はれにけり

 雲の上にその曉を待ほとや笠置のみねに有明の月

秉燭の時分南都の宿坊につく。この後雨はなはだくだる。よくせずば笠置にとまるベかりけり。