雲はらふふしのねおろし吹やたゝ秋の朝けのみにはしむとも
なをさりのけしきならすよ朝日影雪に移ろふふしの高ねは
あさざむなるほどにて御わたぼうしをせられ侍しに。おりしも富士の根にくも一むらかゝりて。さながらぼうしのやうに見えけるを。御わたぼうしにおほしめしなずらへて。
我ならすけさはするかのふしのねに綿帽子ともなれる雪哉
御和。
富士のねにかゝれる雲も我君の千世を戴く綿ほうしかも
又御詠。
いつゆくと忘れやはするふし河の浪にもあらぬけさの眺は
嬉しさも身
同御和。
富士川の浪もいく世かかけまくもかしこき影を仰き渡らむ
ふしのねや心にこめむつゝみえぬ雲のま袖はかきり有とも
此山の由來たづねきこしめしけるに。そのかみ壬子年とかやに出現の由。守護注申侍しに。ことしの支干相應。奇特におぼしめされて。
かゝる身も神はひくかと白雲のふしのたかねを猶や仰かむ
敷嶋の道はしらねと富士のねの眺にをよふことのはそなき
御和。
君かへむやをよろつ代の坂まてもふしのね高き神そしる覽
富士のねの雪さへ
ひねもすになかめくらさせおはしまして。
こと山は月になるまて夕日影なをこそ殘れふしのたかね
たゞいまのおもかげをつかふまつるベきよし仰ごと侍しに。
白妙の高根はかりはさたかにて日影のこれる山のはもなし
廿日。淸見寺〈府中より四里。〉にてあそばしをかれし御詠.。
關のとはさゝぬ御代にも淸みかた心そとまるみほの松原
御舟にめされ。海人のかづきするなど御覽ぜられて還御なり侍き。仁行如㆑春威行如㆑秋なる御よそほしさみたてまつる貴賤。御道すがらさりもあへ侍らず。入江の宿たかはしなはてなど過て。廣き野やま。こゝやかの草薙の神劔