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Page:Gunshoruiju18.djvu/590

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 夜を寒みかさねやせまし旅衣はるたにあらきあきのうら風

今夜は廿五里ばかりこぎて。安藝國かまかりに御舟とゞめらる。黑イ嶋とかいふ所也。

廿日。いかりをとりて。內の海。たかみ。たかさき。ひきしま過て。にふの浦と云所にとゞまらせ給。東風むかひて浪あらければ。しばらくかからせたまふ。日の入ほどに風すこしなぎたり。又御舟をこがせらる。夜に入てなを雨風おどろおどろしく成しかば。舟ども思ひにこぎわかれて御ふねははるかにさかりけるをもしらず。御舟を洲にをしかけてゆかざりければ。はし舟をめしてたゞのうみの浦と云所のいそぎはにあしふける小屋にやどらせ給ひける程に。しほみちきて御舟おきぬとてまいれり。又めしてこがせ給。

 うきねする沖つ泊をいそけとや明ぬ夜しほに船のおくらん

しほのひてゐたる舟の。しほみちてうかぶをば。おくるといふにこそ。

廿一日。御舟出。風なを吹はりて。御ふねのや。ほの柱吹おりにけり。いまだ朝のほどに備後國尾道につかせ給ぬ。御座は大寧寺とて天龍寺の末寺なり。海中までうき橋かけて御道とせり。なにとなくめづらしかりき。

 古へにこりかたまりし跡なれやもしほくむてふあまの浮橋

かのほこのしたゝりの事思ひよせられてよめるなるベし。

廿二日。卯時に御舟出。あふとといふせとあり。をひ風はげしく浪高かりしかば。船どものほをおろしてこぎかさねしかば。手ざほどもきびしくとりてこぎ過たり。此處は嶋一南方へさし出て。北の山々のあはひのほそき所ををしまはす所なり。海賊とて白浪のたち所なりとぞ。ともの浦の南にあたりて。宇治は□りなといふ嶋々有。箱のみさきといふも侍り。