Page:Gunshoruiju17.djvu/243

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りてとくおろさんとて綱を引すぐしてつなたゆるとき[すなはちにイ]に。やしまのかなへのうへにのけざまにおちたまへり。人々あさましがりて。寄てかゝへたてまつれり。御目はしらめにてふし給へり。人々水をすくひ入たてまつれり。からうじていき出給るに。又かなへの上より。てとりあしとりしてさげおろし奉る。からうじて御心ちはいかゞおぼさるゝととへば。息の下にて。物はすこしおぼゆれど。こしなむうごかれぬ。されどこやすのかひをふとにぎりもたれば嬉敷おぼゆれ[ゆるなりイ]。まづしそくさしてこ。このかひがほ貝面見むと御ぐしもたげ御手をひろげ給へるに。つばくらめのまりおけるふるくそをにぎり給へるなりけり。それをみ給ひて。あなかひなのわざやとの給ひけるよりぞ。思ふにたがふ事をばかひなしといひける。かひにもあらずと見給ひけるに。御心ちもたがひて。からびつのふたに入られ給ふべくもあらず。御こしはおれにけり。中納言ははら[いはイ]はげたるわざしてやむことを。人にきかせじとしたまひけれど。それをやまひにていとよはく成たまひけり。かひをもとらずなりにける〔よりも。人の聞き笑はん〕事を。日に添て思ひ給ひければ。たゞにやみしぬるよりも人聞媿敷おぼえ給ふ成けり。是をかぐや姬聞て。とぶらひにやる歌。

 年をへて浪立よらぬすみのえのまつかひなしときくは誠か

とあるをよみてきかす。いとよはき心にかしらもたげて。人にかみをもたせて。くるしき心ちにからうじて書給ふ。

 かひはなく有ける物をわひはてゝしぬる命を救ひやはせぬ

と書はてゝたえ入給ひぬ。是を聞て。かぐや姬少哀とおぼしけり。それよりなん少嬉しきことをばかひあるとはいひけり。扨かぐや姬かたちの世ににずめでたき事を。御門聞しめ