Page:GovernmentCompensation-Trial Judgement-HanreiJihō.djvu/2

提供:Wikisource
このページは校正済みです


判決


原       告  別紙原告目録のとおり

 (以下、原告については、右目録中の番号によって表記する。例えば、右目録中の番号一の原告については 「原告一番」と表記する。)

右訴訟代理人弁護士   別紙原告ら訴訟代理人目録のとおり

右訴訟復代理人弁護士 別紙原告ら訴訟復代理人目録のとおり

《住所略》ママ

被       告  国

右代表者法務大臣   森 山 眞 弓

右指定代理人     別紙被告指定代理人目録のとおり


主文


一、被告は、原告らに対し、別紙認容額一覧表の各原告に対応する「認容額」欄記載の各金員及び右各金員に対する同一覧表「遅延損害金起算日」欄記載の各日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三、訴訟費用は、これを八分し、その七を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

四、この判決の第一項は、本判決が被告に送達された日から一四日を経過した時は、仮に執行することができる。


事実及び理由


第一章 原告らの請求


 一 被告は、原告一番ないし原告一三番に対し、それぞれ金一億一五〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成一〇年八月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

 二 被告は、原告一四番ないし原告三一番に対し、それぞれ金一億一五〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成一〇年一〇月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

 三 被告は、原告三二番ないし原告四五番に対し、それぞれ金一億一五〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成一〇年一二月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

 四 被告は、原告四六番ないし原告一二七番に対し、それぞれ金一億一五〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成一一年四月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。


第二章 事案の概要等


 第一 事案の概要

 本件は、平成八年四月一日に廃止されたらい予防法 (昭和二八年法律第二一四号。以下「新法」という。) の下で同法一一条の国立療養所 (以下「療養所」という。) に入所していた原告らが、被告である国に対し、①国家賠償法が施行された昭和二二年一〇月二七日から新法の下で厚生大臣が策定・遂行したハンセン病の隔離政策の違法、②国会議員が新法を制定した立法行為又は新法を平成八年まで改廃しなかった立法不作為の違法などを理由に、国家賠償法に基づき、新法及びハンセン病政策によって療養所に隔離されたことによる損害及び新法の存在及びハンセン病政策の遂行によって作出・助長された差別・偏見にさらされたことによる損害などの賠償を求めた事案である。


 第二 前提事実 (後記一、二は当事者間に争いがない。なお、後記三の争いの有無及び証拠の摘示は、別紙一参照)

 一 ハンセン病の医学的知見の概略

 1 ハンセン病の定義

 ハンセン病は、抗酸菌の一種であるらい菌によって引き起こされる慢性の細菌感染症である (なお、これまで (ママ癩 (らい)」とも呼ばれてきたが、以下、原則として、ハンセン病という。)。らい菌は、明治六年ころにノルウェーのアルマウエル・ハンセンによって発見された細菌で、結核菌等と同じ抗酸菌に属するものである。ハンセン病は、主として末梢神経と皮膚が侵される疾患で、慢性に経過する。

 2 ハンセン病の感染・発病

 らい菌の毒力は極めて弱く、ほとんどの人に対して病原性を持たないため、人の体内にらい菌が侵入し感染しても、発病することは極めてまれである。

 3 ハンセン病の治療

 ハンセン病の本格的な薬物療法は、昭和一八年、アメリカでのプロミンの有効性についての報告に始まり、日本でも、昭和二二年より、静脈注射によって投与するプロミンが一部の患者に使用され始めた。その後、プロミンの改良型で同じスルフォン剤の一種である経口薬ダプソン (DDS) が用いられるようになった。さらに、昭和四〇年代後半になり、リファンピシンがらい菌に対し強い殺菌作用を有することが明らかになった。

 昭和五六年には、WHO (世界保健機構) が、リファンピシン、DDS及びクロファジミン (B六六三) による多剤併用療法を提唱した。この多剤併用療法は、その卓越した治療効果だけでなく、再発率の低さ、患者に多大な苦痛と後遺症をもたらす経過中の急性症状 (らい反応) の少なさ、治療期間の短縮等の点で画期的な療法であり、わずか数日間の服薬で菌は感染力を喪失するとされている。

 そのため、現在では、ハンセン病は、早期発見と早期治療により、障害を残すことなく、外来治療によって完治する病気であり、また、不幸にして発見が遅れ障害を残した場合でも、手術を含む現在のリハビリテーション医学の進歩により、その障害を最小限に食い止めることができるとされている。

 二 ハンセン病に対する法制の変遷等

 1 「癩予防ニ関スル件」の制定

 明治四〇年、我が国においてハンセン病患者に対する強制措置を定めた最初の法律である明治四〇年法律第一一号 (以下「癩予防ニ関スル件」という。) が制定された。これによれば、「癩患者ニシテ療養ノ途ヲ有セス且救護者ナキモノハ行政官庁ニ於テ命令ノ定ムル所ニ従ヒ療養所ニ入ラシメ之ヲ救護スヘシ但シ適当ト認ムルトキハ扶養義務者ヲシテ患者ヲ引取ラシムヘシ」(三条一項)、「主務大臣ハ二以上ノ道府県ヲ指定シ其ノ道府県内ニ於ケル前条ノ患者ヲ収容スル為必要ナル療養所ノ設置ヲ命スルコトヲ得」(四条一項) とされた。

 2 懲戒検束権の付与

 大正五年法律第二一号により、「癩予防ニ関スル件」が一部改正され、「療養所ノ長ハ命令ノ定スル所ニ依リ被救議者ニ対シ必要ナル懲戒又ハ検束ヲ加フルコトヲ得」 (四条ノ二) とされ、療養所長の懲戒検束権が法文化された。

 3 癩予防法の制定

 昭和六年法律第五八号により、「癩予防ニ関スル件」が改正され、癩予防法 (以下「旧法」という。) の名称となった。右改正により、「行政官庁ハ癩予防上必要ト認ムルトキハ命令ノ定ムル所ニ従ヒ癩患者ニシテ病毒伝播ノ虞アルモノヲ国立癩療養所又ハ第四条ノ規定ニ依リ設置スル療養所ニ入所セシムベシ」 (三条一項) とされた。

 なお、この前後より、被告が全国で推進した「無らい県運動」によつて、ハンセン病の未収容患者が次々と療養所に入所させられ、昭和五年から昭和一〇年にかけて入所患者数が約三倍に増加した。

 4 優生保護法 (昭和二三年法律第一五六号) の制定

 昭和二三年に優生保護法が制定されたが、これには次の内容の規定があった (以下「優生保護法のらい条項」という。)。

 ㈠ 医師は、本人又は配偶者が癩疾患にかかりかつ子孫にこれが伝染するおそれがある者に対して、本人の同意並びに配偶者 (届出をしないが事実上婚姻関係と同様な事情にある者を含む。以下同じ。) があるときはその同意を得て、優生手術を行うことができる (三条一項三号)。

 ㈡ 都道府県の区域を単位として設立された社団法人たる医師会の指定する医師は、本人又は配偶者が癩疾患にかかっている者に対して、本人及び配偶者の同意を得て、人工妊娠中絶を行うことができる (昭和二七年法律第一四一号による改正後の一四条一項三号)。

 5 新法の制定

 ㈠ 昭和二八年八月一五日、旧法が廃止され、新法が公布施行された。

 新法の主な規定を挙げると、次のとおりである。

  (国立療養所への入所)

 六条 都道府県知事は、らいを伝染させるおそれがある患者について、らい予防上必要があると認めるときは、当該患者又はその保護者に対し、国が設置するらい療養所 (以下「国立療養所」という。) に入所し、又は入所させるように勧奨することができる。

 2 都道府県知事は、前項の勧奨を受けた者がその勧奨に応じないときは、患者又はその保護者に対し、期限を定めて、国立療養所に入所し、又は入所させることを命じることができる。

 3 都道府県知事は、前項の命令を受けた者がその命令に従わないとき、又は公衆衛生上らい療養所に入所させることが必要であると認める患者について、第二項の手続をとるいとまがないときは、その患者を国立療養所に入所させることができる。

 4 第一項の勧奨は、前条に規定する医師が当該患者を診察した結果、その者がらいを伝染させるおそれがあると診断した場合でなければ、行うことができない。

  (従業禁止)

 七条 都道府県知事は、らいを伝染させるおそれがある患者に対して、その者がらい療養所に入所するまでの間、接客業その他公衆にらいを伝染させるおそれがある業務であって、厚生省令で定めるものに従事することを禁止することができる。

 2 前条第四項の規定は、前項の従業禁止の処分について準用する。

  (汚染場所の消毒)

 八条 都道府県知事は、らいを伝染させるおそれがある患者又はその死体があった場所を管理する者又はその代理をする者に対して、消毒材料を交付してその場所を消毒すべきことを命ずることができる。