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ったん決定した就職が身許調査により取り消されるなどし、ある者は上司から職場の男性と親しくしないよう注意されたばかりでなく、普通の勤務態度でいることすら否定され、ある者は勤務先で店員として稼働中あるいは通勤途中、「人殺しの那須の身内」という呼ばれ方をするなど、一歩家を出るとその人格を無視されるような社会生活を強いられてきたのである。これは単に社会的な扱いにおいてだけでなく、原告隆が有罪判決を受けた際負担を命ぜられた訴訟費用について執行免除を申し立てた裁判の中でも、父母に資産があり、弟妹が稼働して収入があるのであるから免除しないとされ、実質的には原告ら全員にその支払義務が確認されるなど、原告ら全員が冤罪の汚名のもとに生活することを強いられたのである。これらの社会的、法律的処遇は、すべて前記誤判とこれを生み出した前記各機関の不法行為に基づくものであり、このために原告隆及び同とみを除くその余の原告らは、原告隆が生命を害されたときにも比肩すべき精神的苦痛を受けたから、被告はその余の原告らに対し、各金三〇〇万円の慰籍料を支払うべきである。

㈤ 弁護士費用

 原告らは、本訴の提起、追行を南出一雄ら四名の弁護士に委任したから、原告らは少なくとも請求額の各一割(原告隆については金四七〇万円)を弁護士費用として右弁護士に支払う義務があるところ、これも本件不法行為と相当因果関係のある損害であるから、被告はこれを賠償する責任がある。

  以上によれば、原告らの請求額は、原告ら各自の被った損害額に亡〔丁2〕の損害賠償請求権の相続分をそれぞれ加算したうえ、原告隆についてだけは損害の補を受けた分を控除し、これに右回記載の弁護士費用を各加算した額となるが、これを表にすれば、別紙㈠のとおりである。

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  よって、原告らは被告に対し、国家賠償法一条または民法七〇九条ないし七一一条に基づき、損害賠償として別紙㈠の請求金額明細表中「請求金合計額欄記載の各金員及びこれらに対する本件不法行為の日より後である昭和五二年一〇月二八日から各支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二 請求原因に対する認否

 1 請求原因1㈠ないし㈢は認める。
 2㈠ 同2㈠につき、再審判決において、「本件が被告人(原告隆を指す。)の犯行であることを認めるに足る証拠は何一つ存在しない」旨の判示がなされたことは認めるが、その余は争う。
 ㈡ 同2㈡のうち、原二審の有罪判決においては、本件白シャツに血痕が付着していたとされ、これが直接証拠となったこと、本件白靴の斑痕も人血痕とされ、これが直接証拠となったことは認めるが、その余はすべて争う。
 ㈢ 同2㈢はすべて争う。
 ㈣ 同2㈣のうち、原二審裁判所が有罪の認定をしたこと、上告裁判所が上告を棄却したことは認めるが、その余は争う。
 ㈤ 同2㈤のうち、被告が裁判官、検察官の各職務行為につき国家賠償法上の責任主体であることは認める。
 3㈠ 同3㈠のうち、原告隆は、逮捕された当時二五歳の独身青年であって、旧制中学校を卒業しており、当時無職であったこと、同人は昭和三八年一月八日まで拘禁生活を余儀なくされたこと、昭和五二年八月三〇日、刑事補償法に基づく補償金として金一三九九万六八〇〇円の交付を受けたことは認めるが、その余はすべて争う。
 ㈡ 同3㈡のうち、亡〔丁2〕は原告隆の父であり、同人が裁判所に勤務していた経歴を有すること、同人は昭和四六年九月一七日死亡したことは認めるが、その余はすべて争う。
 ㈢ 同3㈢につき、原告とみが原告隆の母であることは認めるが、その余は争う。
 ㈣ 同3㈣のうち、その余の原告らの身分関係及び訴訟費用執行免除の申立てがなされ、これが却下されたことは認めるが、その後はすべて争う。
 ㈤ 同3㈥は争う。
 4 同4は争う。

三 被告の主張

 本件における被告の主張は、被告提出にかかる別紙準備書面㈠ないし㈣記載のとおりである。

四 被告の主張に対する原告らの反論

 被告の主張は刑事裁判の手続形成の重要な意義を理解せず、鑑定書の記載についても初歩的ルール等を全く無視した暴論で理解に苦しむものであるが、一応問題点ごとにその誤りを指摘しておくこととする。
 1 松木明、〔丙〕の鑑定人としての資質について
 松本明は確かに生人血液の鑑定を多く手がけていた医師であるが、同人の研究テーマは人間の血液型の分布等、人間から生血液を採取してのそれであり、法医学的なものとは全く異なっていた。しかも、同人は、斑痕が人血痕であるか否かについて鑑定をしたのは本件が初めてであるというのであるから、本来、鑑定人となり得る資格があったかどうかさえはなはだ疑問なのである。再審請求が問題になった段階で、同人ははじめて自分のなした鑑定につき正式の鑑定という名に価するものではない旨供述しているが、そうだとすれば当初から鑑定書を作成提出すべきではなかったのである。
 また、〔丙〕は更に資質に欠けるもので、鑑定人としての適格を有しなかったのである。にもかかわらず、何故か共同鑑定人という形で責任を分担しながら、あたかも通常の鑑定人のごとくふるまったところにこそ問題があったのである。
 2 松木明、〔丙〕の作成した鑑定書の無価値性について
 被告は、右両名が二度に亘ってなした鑑定を一通の鑑定書にまとめたものであって、実際の鑑定作業も鑑定書に記載されている日時に行なったものではなく、別の時期に行なったものであり、鑑定書には記載されていないが、鑑定の結果はすでに出ていたし、対照試験は血痕の付着していた付