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して休んで居ました時に警察官が二人来て〔乙40〕方の井戸を教へてくれと云って来ましたから「何するんだ」と聞きましたら凶器を探すんだと云って居りました それで私も磁石を糸に結びつけて試してみたりしましたが何にも反応が出ませんでしたから帰りました その後程なくして警察官が一寸本署まで来る様にと云って来たので当時着て居たシャツをで脱ぎ鴨居に打ちあった服架けにかけて行きました(以上の傍点は被告指定代理人)

というのであり、これらの指示説明からどのようにして再審判決の前記のような認定に至ったのか理解に苦しむところである。ちなみに原審(第一、第二審)では、本件海軍シャツの捜索差押状況について判旨するところがなく、格別の不審を抱いた節はみうけられない。
 被告としては、もし再審判決が本件海軍シャツの捜索差押状況を確定すべき必要性に想いを致したのであれば、乙八六号証を検討のうえ、少なくともまず本件海軍シャツの第一発見者は〔丙10〕か〔丙9〕かを明確にすべきものをその解明もせず、どういう理由によるのか判然としないが前記のような認定をした点には、非難を加えないわけにはいかない。
 本件訴訟において、証人〔丙10〕は、前記検証調書記載の指示説明のとおりの経緯で本件海軍シャツを発見したこと、自己が右シャツの第一発見者であること、本件海軍シャツに血痕様の斑痕のあるのを認めこれを差押えることにしたこと、現場では他の捜査員らが多くの衣類等を検分中でありこれらと区別するためとりあえず右シャツを鴨居に打ちかけておいたこと、同人は捜索途中で那須隆を同行してその場を立去ったため本件海軍シャツの差押手続を〔丙9〕に指示したことを証言しているのである。〔丙10〕の右証言は〔丙9〕の前記指示説明とも矛盾するわけでなく充分信用し得るだけの内容を有し、たやすく排斥できるものではない(なお、被告の準備書面㈠、第一、三本件海軍シャツの押収の記載中「ところで〔丙10〕警部補は、……着がえたものであった。)」を本準備書面で述べたとおり訂正する。)。
 このような次第であるから、再審判決が本件海軍シャツの捜索差押状況について述べるところは、到底承服し難く、慎重な検討を要するのである。

3

   再審判決の本件海軍シャツ付着血痕の色合いについての判断は、同シャツの証拠価値を否定するため、これを見分した者の表現の差異をことさらにとりあげてしたもので、不当である。
 さらに再審判決は、鑑定人間あるいは捜査関係者間で、本件海軍シャツ付着の血痕の色合いについて表現の異なることを挙げる。しかし、色の区別は我々の日常経験に照らしてみても微妙かつ困難であるから、その表現の相違は、それ自体を強調するのではなく、全証拠との関連を念頭において適正な証拠評価を試みるべきものである。まして二〇年余りも前に見た色合いについては尚更のことである。このことについては、特に捜査関係者の色に関する証言の評価に関連して既に準備書面㈠、第三、四で指摘した。
 ところで、そもそも本件海軍シャツ付着の血痕の色合いに対する 各鑑定間の表現が、再審判決が強調する程相違するといえるかおおいに疑問であるので、以下に若干検討を加えておく。
 被告は引田医師のもとに本件海軍シャツが運び込まれなかったこと、従って同医師は右シャツの検分をしていないことを強く主張(準備書面㈠、第二、二参照)するものであるが、検分したことがあったと仮定しても、刑事事件における引田証言の表現するところでは、「褪灰暗色」、「あせた様な褐色」、「帯灰暗色」、「灰色がかったあせた様な黒ずんだ色」などと言っており、科捜研の鑑定では「褐色」、三木鑑定では「赤褐色」と表現されている。三木鑑定にいう「赤褐色」は、同人が古畑教授直系の法医学者であるから、同教授の「私の赤褐色というのは赤味がとれて褐色となったものを指すのです」と証言するのと同趣旨と解せられる。そこで、古畑教授の「褐色の中には、赤と暗とがあるのです。」「その時の色の度合、溶解の度合でいろいろ呼んでいるのが大体の標準でありますが、その外に見る人の眼によっても違いますから、はっきり決めることはむずかしいと思います。」旨の証言に照らして検討してみると、いずれも通常ひろく褐色と呼ばれている範疇のものとして了解することが十分可能なのである。右相違を過度に強調するならば、各鑑定の都度原告らが主張するところの偽造がおこなわれたと「推察」する他なく、もはや合理的推測の域を超えることになるであろう(なお、引田医師は、仮に本件海軍シャツを検分したとしても単に一見したに過ぎず鑑定の呈をなしていないこと、その血痕の表現も前記のとおり一貫しておらず、同一色といい難い程証言が変転していること、付着斑痕を血痕と感じたかその他の汚れと感じたかの区別さえ明確な証言をしていないこと、同医師の「血痕の経時的変色に就いて」の表現方法は法医学者の共通の認識とはなっていないことなどからみて同証言のみに過大な評価を与えることは不当という他ない。準備書面㈠、第二、二参照)。
 右色合いの表現の相違についても、前記1で指摘した視点を基本にすえ、各鑑定を時間的推移(現実に検査を実施した日時)に従い、且つ、本件白ズック靴、同海軍シャツを統一して考察(この点は捜査機関の意図を理解するうえで極めて重要である。)することが肝要なのであり、各鑑定を単に平面的に羅列して比較検討しても真相を発見する有効な考察方法足りえない。しかも被告指摘の右考察方法によれば、既に準備書面㈠、第三、一で述べたとおり、再審判決がいう様な「推察」の余地は全くなく、容易に原告らのいうような偽造等の疑惑は払拭し得るのである(なお、右指摘では偽造を引田医師の鑑定後で科捜研に嘱託するまでの間に想定したが、科捜研の鑑定後で三木助教授に対する鑑定嘱託までの間(権