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解明に不可欠な事実である右鑑定書記載の検査が現実に何時実施されたのか、その検査結果は正しいかという事実確定の必要性の認識において、基本的な視点が完全に欠落しているのである。そればかりでなく、再審判決は、逆に右鑑定書の作成日付検査実施日等についての不用意かつ不正確な記載から、本件海軍シャツ付着の血痕についてありうべからざる事実推定を行う心証を抱くに至ったとしか思わざるを得ないのである。
 被告はこのような状況のもとでなされた再審判決の前記の如き「推察」には到底承服することができない。しかし、被告はこの点に関し既に準備書面㈠において詳述しているのでこれ以上の再論を避けることとする。

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   次に再審判決には、本件海軍シャツの押収経緯の誤解又は不十分な理解による証拠価値判断の誤りがある。
 すなわち、再審判決は、本件刑事事件の原第一第二審で取調済である「昭和二四年八月二二日付捜索差押許可状、司法警察員作成の同日付捜索調蓄、差押調書、原一審検証調書の各記載および原一審証人〔丙9〕、同那須とみならびに被告人の原一審公判廷における各供述記載によって、「被告人は本件で逮捕された当日である昭和二四年八月二二日には、午前八時頃から本件白シャツを着て自宅庭の松の木の手入れをしていたところ、警察官から弘前市警察署までくるように言われたため、同シャツを脱いで被告人方玄関から入って右側八畳間の東側に接した六畳間の鴨居に打ちつけてあった衣服掛けにこれを掛けて着替えの上同警察署に出頭したが、その後同日午後四時一五分から一時間にわたって警察官により家宅捜索がなされ、本件白シャツが右衣服掛より押収された」旨認定しているが、以下に述べるとおり、はたして前記証拠によって右のように認定しうるかどうかは大いに疑問である。
 まず再審判決が指示する前託証拠のうち、本件海軍シャツの捜索差押状況(右海軍シャツがいかなる場所にいかなる状態で存在したか)の考察にあたっては、捜索、差押調書にこれに関する記載がないため、 第一審で昭和二五年六月二七日実施された検証の結果が客観的には唯一にして最も重要な資料であることを銘記しなければならない。そして右資料によれば本件海軍シャツの捜索差押状況については、本件原第一審中に争いとなり、右検証の目的もこれの確定にあったことを知ることができる。
 そこで右検証調書の内容を検討するに、〔丙10〕、〔丙9〕、那須とみ、 被告人(那須隆)の四名が立会っており、その指示説明は、

㈠ 立会人〔丙10〕の指示説明

 去年八月二十二日被告人が本件殺人事件の容疑者として逮捕された後凶器等があるのではないかと考へ本現場に〔丙9〕部長〔丙14〕〔丙15〕〔丙20〕各刑事と一緒に来て家屋内は勿論井戸、便所、下水流場、貯池、小舎等一切捜索した事は間違ありません 本件で血がついていると云って押収され証拠品となってゐる白海軍用開襟シャツは幅二尺長さ四尺高さ二尺五寸位の丁度りんご箱より大の黒塗り箱に衣類と共に入って居たのから被告人の母が取り出した様に記憶して居ます その様な箱はD部屋の押入に二、三個入って居り中味は紙貼りをして居た様でしたが別に蓋を取って見せてはくれませんでした その時他にいろんな衣類も一杯見ましたが押収目録の謄本を渡すべく作成させた時〔丙15〕刑事に対して白シャツ半ズボンと云った様に記憶して居ります

㈡ 立会人〔丙9〕の指示説明

 去年の八月二十二日頃被告人が本件殺人犯容疑者として逮捕された日に本件犯行に使用したる凶器その他証拠品となるものがありやしないかと思い〔丙10〕警部補〔丙15〕〔丙14〕〔丙20〕各刑事等と共に本現場の家宅捜索を施行した事は間違ありません その際便所、井戸その他覚しき所全部を捜索しましたが凶器の発見は出来ませんでした 当時私達はD部屋で確か被告人の母が顕示した被告人の衣類日用品等を拡げて見ました その際見た被告人の衣類の中にはシャツ等があり然もそのシャツの中には紐がついたものもありましたがそれが何故であったか現在記憶ありません 又当時C部屋の①個所の鴨居に吊るし架けられて居たシャツ一枚をも押収した事も間違いありません その下方の畳上にズボンや革バンドがあった様でした 唯そのシャツには紐がついて居なかった様でした 本件公判で血がついてゐると云ふ事で証拠品となって裁判所で領置してある白開襟シャツがそれであったか何うか現品を見なければ断言出来ません
 当時の家宅捜索に要した時間は一時間以上と考へますがはっきりしません 又捜索に際しては〔丙10〕警部補が何時も我々係官と行動を共にして居た訳ではありませんから何時拳銃を発見 押収したか私には判りません

㈢ 立会人那須とみの指示説明

 私方の間取り並に犯行当時に於ける模様については夫〔丁2〕が説明した通り殆ど間違なく唯D部屋に臥して居た〔丁4〕の頭は確か南側であった様に記憶して居ります本件発生により隆が容疑者として逮捕された後二回家宅捜索を受けましたが中一回目は私が立会い、二回目は夫〔丁2〕が立会いました 私が立会った時は去年の八月二十二日でその時隆が逮捕されて行く際着替へて行った所謂作業を脱いで行った所は①地点でした 此処にあったシャツは畳の上にズボン、革バンドと共に置かれ紐のついた腕の細いものでした 別にそのシャツは鴨居に架け下げてありませんでした 又私方では各家族の衣類等は各個に箪笥の抽斗に名を表記して区別して居ります 従いまして家宅捜索を受けた当時は係官の命令通り隆の分丈け箪笥から出して見せた丈けでした 別に黒塗りのりんご大の箱等出して〔丙10〕警部補に見せた事は記憶ありませんしそんな箱は私方に一つもありません

㈣ 被告人の指示説明

 去年八月二十二日私が本件証拠品となってゐる即ち血のついてゐると云ふシャツは庭の松の木手入れの際着て居りました そ