Page:First civil judgement of Hirosaki incident.pdf/34

提供:Wikisource
このページは校正済みです

めて鑑定書とする作業を行ったのであるが、準備書面㈠第一、一〇、1記載の事情も加わったうえ、そのとりまとめ方が前述した乙一一一号証にみられるように二回にわたる鑑定結果を一回の検査結果として記載するなど極めて軽率かつ稚拙であったため、誤記等を多々生ずることとなり、また、松木医師もこれに充分検討を加えなかったため、右誤記等を発見するに至らなかったのである。
 なお、同医師の証言によると、本件捜査当時の同医師の認識としては、科捜研や三木敏行作成の鑑定書等が公判廷に提出される正規のものであり、自己名義の鑑定書は捜査過程を明らかにする捜査本部のメモ書程度のものというのであるが、当時の捜査の進展状況に照し、また事実三木鑑定等がなされていることを考えると、当時の同医師の心情を理解することができ、これを異とすることはできない。このことは、同医師が容易に発見しうる誤記を見落したり、書面中空白個所をそのままにしていたり、署名も〔丙〕技官におこなわせていることなどからも窺い知ることができる。
 ところで、〔丙〕技官は右の経緯で鑑定書を作成しおえた段階で、もはや鑑定報告書を不必要なものと即断しこれを破棄してしまったため、捜査記録中に右鑑定報告書は現存しない。しかし、鑑定報告書が存在したことは次の事実からも疑いを容れる余地はない。すなわち、昭和二四年八月二二日付の逮捕状請求書に「……該ズック靴(本件ズック靴のことである。)を 松木医師に鑑定方依頼(付着している血痕を)の結果、被害者と同様B型なること判明……」と明示して記載していることからみて、捜査本部は松木医師から本件白ズック靴に付着する血痕がB型である旨の鑑定結果を得て逮捕状請求に踏みきったことが明らかであり、右鑑定結果(その内容は本件白ズック靴に関する乙七八号証の鑑定書と同一である。)を何等かの形式で書証化して右逮捕状請求の疎明資料としたと解さざるを得ないが、捜査記録中に右疎明資料は現存していない(乙七八号証は当時作成されていなかったことが明らかであるから、同書面は疎明資料たり得ない。)。しかし、裁判官が右の点に関する何等の疎明資料がないのに逮捕状の発布をしたとは到底考えられない。故に鑑定結果について〔丙〕名義の昭和二四年八月二二日付鑑定報告書が作成され、これが疎明資料となったとみるほかない。以上の事実は、既に準備書面㈠第二、一で詳述した本件白ズック靴に関する乙七八号証の鑑定書が昭和二四年八月二二日実施の鑑定結果を記載したものであることの指摘の正しさを一層明らかにするものである(要するに、乙七八号証は右昭和二四年八月二二日付鑑定報告書に基づいて作成されたのであり、その後同報告書は破棄されたため、現存していないのである。乙七八号証には、本鑑定は、「昭和二四年十月十七日午後四時に着手し同十八日午後四時に終った。」旨記載されているが、 右記載は鑑定書の体裁を整えるための不正確な記載にすぎないことは既に指摘したとおりであるが、更に付言すると、〔丙〕技官は昭和二四年一〇月一七日東北大学法医学教室三木敏行助教授のもとに本件海軍シャツ等のQ式検査依頼のため来仙している事実があり、右事実をとらえても右記載が不正確なものであることは明白である。)。
 以上の次第であるから、松木医師及び〔丙〕技官のこの点に関する証言も充分信用しうるのである。


別紙 準備書面㈢

一 本件海軍シャツに関する再審判決の判断の誤りについて

 被告は、当初から、本件白ズック靴、同海軍シャツに付着していた血痕について、原告主張の如き捜査当局の意図的な付着による証拠偽造の疑念を差しはさむべき余地が全くないことを強く主張し、その立証のため、新たに青森県警察本部鑑識課で保管し本件訴訟の提起までかえりみられることのなかった本件鑑識関係文書を提出し、かつ、証人松木明、同〔丙〕等被告申請証人に対してはできうる限り記憶を喚起させて正確な証言を求めるよう努めてきたところであるが、御庁におけるこれまでの審理の結果、右の被告の主張は明白にすることができたものと信ずる。
 ところで、再審判決の判文中「本件白シャツにはこれが押収された当時には、もともと血痕は付着していなかったのではないかという推察が可能となる」(傍点は被告指定代理人)旨述べる個所があり、原告の主張も概ねこれを拠り所とするものとみられるので、なお右の点について若干の考察を加えておく。

1

   まず再審判決には、本件ズック靴、同海軍シャツに対する証拠価値判断の基本的考察方法を誤った 重大な欠陥がある。
 すなわち、再審判決は本件捜査の推移を充分念頭においたうえ松木ないし松木・〔丙〕作成名義の本件白ズック靴、同海軍シャツに関する鑑定書等の証拠価値を十分に検討すべきであったのに、その内容、形式を表面的に観察するにとどまったため、松木医師、〔丙〕技官の鑑定作業の経緯と真相を知る機会を失してしまった。繁を厭わず再審判決の誤りを指摘すると、同判決は、(イ)〔丙〕技官は松木医師のもとで実施した鑑定結果について、逐次弘前市警察署長宛に鑑定報告書を提出していたが、本件公判請求後、〔丙〕作成の本鑑定報告書では立証上適切ではないとして、右鑑定内容を鑑定書の形式で書証化することとされ、そのころ一括して松木明あるいは松木明・〔丙〕名義の鑑定書(本件白ズック靴、海軍シャツに関するもの)が作成されたこと、(ロ)また〔丙〕技官が鑑定報告書をとりまとめて鑑定書とする作業を行った際、そのとりまとめ方が軽率かつ稚拙であったため誤記等の形式的不備を多々生ずることとなり、また、松木医師も漫然右誤記等を看過したため右鑑定書記載の作成日付及び検査実施日付等は、鑑定書としての体裁を整えるだけとも言える不用意な記載がされていて正確ではないことという重要な事実を看過した。かように再審判決は、本件刑事事件の真相