Page:First civil judgement of Hirosaki incident.pdf/3

提供:Wikisource
このページは校正済みです

後偽造したものである。
  ⑵ また、原二審の有罪判決においては、原告隆が使用していた白ズック靴(以下「本件白靴」という。)の斑痕も人血痕とされ、その旨の鑑定書も作成されていたことから、有罪認定の直接証拠とされたが、右斑痕は血痕ではないうえ、人血液であるとの右鑑定書は、事実に基づかないで作成された虚偽のものである。
  ⑶ さらに、捜査官は、原告隆を犯人と決めつけ、事件発生の翌日にはいまだ被疑者も判明していなかったにもかかわらず、これが判明していたかの如く仮装するため、事件発生の翌日には実況見分を実施し、同日付で作成されたその調書にまで「被疑者那須隆」と記載しているのであって、これらのことからしても捜査官が後日実況見分調書を書き変えたことは明らかである。
  ⑷ 以上のとおり、誤判を生み出した違法行為は、まず、捜査官の右のような違法な捜査活動に存したのである。

㈢ 検察官の不法行為
⑴ 見込み逮捕、勾留等の違法な捜査の経緯

 昭和二四年八月二一日夜、原告隆が友人である〔乙4〕宅に遊びに行った際、同人宅に預けて来た本件白靴を、同夜たまたま同所に立ち寄った警察官〔丙4〕が本人の同意も得ずに勝手に持ち去り、これを弘前市警察署長山本正太郎らに示したところ、同署長らは適式な手続を踏むことなく、当時公安委員をしていた松木明宅に持参して同人にその鑑定を依頼した。右鑑定の結果によっても、原告隆が犯人であるとの明確な結論は出されなかったにもかかわらず、事件発生後犯人割り出しの見通しが立たず、焦っていた右山本らは、同月二二日、原告隆を単なる見込みで逮捕した。逮捕当日、右山本らは、原告隆の自宅から本件白シャツ等を押収したが、これらも全くの見込みによるものであったため、犯行と結びつくものは何も得られなかった。そこで、翌日、再び強制捜査をなして同原告の自宅からシャツ等の衣類多数を押収したばかりでなく、同月二五日にも任意提出の形式で残りの衣類を押収した。これらの押収は、見込みで逮捕したことを上回る見込み押収であり、何かあるのではないかという漠然とした容疑に基づくもので、実質的には明らかに違法なものである。青森地方検察庁弘前支部検察官は、右のような捜査の状況を十分把握していたのであるから、これを直ちに是正すべきであったのに、これを怠り、かえって殺人の被疑事実につき勾留の請求や勾留延長の請求をなし、違法な捜査を黙認継続した。

⑵ 違法な鑑定留置による身柄拘束

 勾留期間満了間近になった昭和二四年九月一〇日から同月一二日にかけて、各鑑定の結果によっても本件白シャツ、本件白靴からは原告隆と犯行とを結びつけるものは全く得られず、他方、同原告は取調べにおいても終始一貫して無実を主張し続けていたのであるから、検察官としてはもはやこれ以上同原告を勾留することは法律上許されないことであって、直ちに同原告を釈放すべきであったところ、違法にも精神鑑定に名を借り、身柄の拘束を継続した。しかも、鑑定留置するに当り、検察官が求めた鑑定事項は、「被疑者那須隆の本件犯行当時及び現在における精神状態」という内容のもので、原告隆が犯人であることを前提とした極めて危険、かつ、違法性の強いものであった。

⑶ 公訴提起の違法性

  (イ) 検察官が原告隆を殺人の罪で起訴するに先き立ち、同原告を逮捕、勾留するに至ったのは、同原告が〔乙4〕宅に預けていた本件白靴を持ち出し、その鑑定を松木明医師に依頼したところ、右白靴に被害者の血液型と同じB型の血痕が付着していたとの鑑定結果が出たことによるものである。ところが、逮捕状請求前に行った本件白靴の鑑定の結果及びその後になされた二回目の鑑定結果を合わせ記載した松本明作成の昭和二四年一〇月四日付鑑定書には、血液型についての記載はなく、かえって血液型については試料不足のため検出不確実であったと記載されており、したがって、検察官が逮捕状請求の資料とした鑑定結果は実際には存在しなかったことが明らかである。しかるに、検察官は、右事実を知りながら、右松木明作成の昭和二四年一〇月四日付鑑定書の存在を秘し、かつまた証拠が偽造されたことを知悉しておりながら、原告隆に対し本件白シャツや本件白靴を示して取り調べたことは一度もなく、右鑑定書と全く異る内容の本件白靴に関する松木明、〔丙〕作成の同月一九日付鑑定書を証拠として原告隆を起訴したのである。しかも、右鑑定書は、〔丙3〕、平嶋侃一作成の昭和二四年九月一二日付鑑定書の内容と照らし合わせて検討するとき、鑑定の対象となった資料(本件白靴)が、松木明作成の同年一〇月四日付鑑定書のそれと果して同一のものであるか否かにつき多大の疑惑を禁じえないものなのである。
  (ロ) また、検察官は、本件白シャツに付着している斑痕が人血であるか否かについて疑問を抱き、昭和二四年一〇月一四日付捜査嘱託書をもって東京地方検察庁に対して調査を依頼したが、その調査結果によっても右疑問点を解明しえなかったにもかかわらず、三木敏行に対し、本件白シャツに付着していた班痕が人血であることを前提として鑑定を依頼し、その結果作成された鑑定書が提出されるや、自らの疑問を晴らそうとせず、かつ、前記調査結果を無視し、右三木鑑定書に依拠して公訴を提起した。

⑷ 訴訟追行の違法性

 検察官は、その職務上真実義務を負っているのに、(イ)当初の逮捕、勾留に関する資料を弁護人の要求や裁判所の勧告にもかかわらず無罪判決確定に至るまで開示、提出することをかたくなに拒み、(ロ)捜査過程において作成された矛盾する鑑定書の一部を再審公判まで隠匿し続け、また、当初の鑑定書や鑑定経緯を明らかにする資料の公判廷への提出を拒み、(ハ)検察官請求の証人引田一雄に対しても、鑑定経緯の矛盾や証拠