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緯を、時間的推移に従って述べると、次のとおりである。

一 事件発生

 昭和二四年八月六日午後一一時三〇分ころ、弘前市警察署〔丙11〕巡査等は、〔乙2〕等から、同日午後一一時ころ、弘前市大字在府町〔略〕〔乙〕方離座敷(松永方)階下一〇畳間において、右〔乙2〕と就寝していた同女の実娘〔甲〕(弘前大学医学部教授松永藤雄の妻で当時三〇年)が何者かによって殺害された旨の連絡を受け、右現場に急行したところ、被害者〔甲〕は、鋭利な刃物で左側頭部を一突きされ、既に左側頸動脈等切断により出血死しているのを発見した。なお、前記〔乙2〕は、犯行直後現場から逃げていく背丈五尺三寸位で白色半袖シャツ、半ズボンを着用した二〇歳過ぎの犯人とみられる男を目撃していた。そこで、現場に急行した警察官等は直ちに犯人並びに凶器遺留品等の発見に努めたが、これを発見するには至らなかった。
 弘前市警察署は、捜査本部を設置(別紙特捜本部編成表のとおり)し、青森県警察本部から〔丙12〕警部、〔丙2〕巡査部長等の応援派遣をえた。
 翌七日、現場付近の綿密な見分を実施し、午前六時ころには、〔丙5〕巡査部長等により、前記〔乙〕宅内(右松永方玄関前から門に至るまで)に五点、同家前路上より〔乙9〕宅前路上までに一八点の血痕が、また松永方東側窓下に犯人の足跡と思われる草を踏んだ跡が、それぞれ発見された。次いで、午前一〇時ころ、〔丙8〕所有の警察犬に右松永方東側窓下の足跡の臭いをかがせたうえ、その臭いを伝って歩かせたところ、犬は右血痕のある道を歩行して〔乙9〕方前で水を飲み、更に木村産業研究所前へ至るや、その場で犬は廻りはじめ、みると小指の先の半分位の大きさの血痕があった。犬は更に進んで〔乙55〕方前まで行って止まり、疲れて動けなくなった。
 翌八日、引き続き見分の結果、〔乙10〕方屋敷内の敷石、小門の敷石や笹の葉、〔丁2〕(原告那須隆の父)方と〔乙10〕方の間の垣根、更には右那須方に続いて血痕が発見された。
 その後、右事実に加え、犯行当日現場付近で犯人と思われる男を目撃した〔乙12〕等から得られた犯人の特徴が、原告那須隆に似ていたこともあって、同人に対する嫌疑は濃厚になり、その動静が注視されるに至った。

二 逮捕状請求

 1 同年八月二一日、捜査本部は、当日原告那須隆が〔乙4〕方に出かけていることを把握していたところ、偶々右〔乙4〕から、捜査本部に電話で原告那須隆についての情報提供(右電話を受けたのは、当直員〔丙5〕巡査部長である。)があったので、午後一一時ころ、〔丙4〕巡査が右〔乙4〕方に赴いた。〔乙4〕は「那須が午後四時ころから午後九時ころまでいた。雨が降っていたので下駄を貸してやった。那須の靴を預っている。」旨述べ、 同人方玄関の下駄箱のうえに、白ズック靴一足が置いてあった。〔丙4〕巡査は、右白ズック靴を手にしてみたところ、白墨が厚くぬられ血痕とみられる斑痕があったので、直ちに右〔乙4〕から右白ズック靴一足の提出を受け、捜査本部に持ちかえった(なお右白ズック靴の領置調書は、翌八月二二日作成されたため、同日付の記載がなされている。)。
 2 〔丙4〕巡査は、山本正太郎署長に、原告那須隆が〔乙4〕方に預けた白ズック靴(以下「本件白ズック靴」という。)に血痕とみられる斑痕がある旨報告したところ、同署長は、これを重視し、午後一一時ころ、〔丙4〕巡査、〔丙5〕巡査部長を同道したうえ、松木明医師(東京帝国大学医学部を卒業し、しばらく同大学法医学教室に籍を置いたことがあり、当時は弘前市公安委員であったが、当地における血液研究者として知られていた。捜査本部は、本事件発生当初から、同医師に捜査協力を願い、同医師に対する信頼は厚かった。)を訪ね、持参した本件白ズック靴に付着している並痕の鑑定を依頼した。松木医師は直ちに検査を実施し、その結果、右斑痕は人血である旨判明したが、血液型については、深夜であることに加え、試料不足のため(検査に供した斑痕では血液型検査をするのに不足であったとの趣旨である。)、確認するに至らなかった。
 3 そこで、翌二二日、捜査本部は、本件ズック靴に付着している人血痕の血液型の確認を急ぐべく、〔丙〕鑑識技官に右ズック靴の検査を命じ、同人は直ちに松木医師のもとに赴き、同医師の指示のもとで右鑑定作業に協力し、遂に右人血痕の血液型はB型であると思われる旨の結果をえた。
 4 捜査本部は、松木医師の本件白ズック靴に関する右鑑定結果を得たことから、本件白ズック靴の人血痕は、犯行時被害者〔甲〕の血液(被害者の血液型がB型であることは、本事件発生当初に確認されていた。)が、 付着したものとの嫌疑を強め、青森地方検察庁弘前支部検事沖中益太に報告し、その了承を得たうえ、原告那須隆を逮捕する方針を決定し、同日青森地方裁判所弘前支部に対し、「犯行現場より連続的に被疑者宅までの路上に血痕があり、更に被疑者は八月二一日午後五時頃血液の付着している白ズック靴を、弘前市大字亀甲町〔略〕〔乙4〕(注、〔乙4〕の誤記である。)に預けたること判明、依って該ズック靴を松木医師に鑑定方依頼(付着している血痕を)の結果、被害者と同様B型なること判明及び八月七日昼前前記〔乙4〕(注、〔乙4〕の誤記である。)〔乙4〕方に 赴き警察で来たら八月六日にはお前のところに泊ったと言ってくれと故意にアリバイを作っている」ことを理由に逮捕状を請求し、その発布を得、同時に捜索差押令状の発布をも得た。

三 本件海軍シャツの押収

 同年八月二二日午後四時一五分ころ、〔丙10〕警部補、〔丙9〕巡査部長、〔丙4〕巡査等は、〔丁2〕方に急行し、原告那須隆に対し任意同行を求めた。
 ところで〔丙10〕警部補は、右那須方居室居にかけてあった海軍用開襟白色シャツを