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書には鑑定結果として、「本件白シャツの 汚斑は血痕であり、血液型はB型の反応を示した。」と記載されていること。
 ㈤ 検察官沖中益太は、右〔丙3〕・平嶋鑑定書に検討を加えてその記載に疑問を抱き、東京地方検察庁に対し、同年一〇月一四日付捜査嘱託書をもって、〔丙3〕・平嶋侃一の両名を取り調べ、その結果を至急報告されたい旨を嘱託したこと、本件白シャツに関する右捜査嘱託の内容は、「鑑定の項の二、『海軍シャツの汚斑は血痕であり血液型はB型の反応を示した』と記載してあるが此の血痕は人血であるのか又は鳥獣の血であるのか、本鑑定の主眼は人血であるか否かが第一位次いで人血なれば其血液型が第二位であるに不拘人血なりや否やの点の記載なきは如何なる理由か」というものであること、これに対する回答として、〔丙3〕、平嶋侃一の両名作成名義の同月一九日付報告書には、「御質問の『人血であるか又は鳥獣魚類の血であるか』に就てですが、検査した『海軍シャツ、…』は全部『抗人血色素沈降素』によって『人血反応』を調べましたが、使用した『沈降素』の『沈降価』は酷暑の時期に左右されたのか、検査時には稍低くなっていたので、試験成績の結果は±(疑陽性)の人血らしい反応も示している状態で、主観的には人血と認めてもよいのも検査上、明瞭に陽性を示していない以上技術者としての良心に従い鑑定書には『不詳である』と私共は鑑定した訳です。この不詳を招来した結果は前述のようでありますが、不詳なる意味は鳥獣魚類の血を意味しているのではありません。『人血反応』の陽性なりや否やの断定は、非常に微妙なもので検査時には勿論対照として、単なる『食塩水』や『獣血』等を用いて検査して居りますから、大きい誤を生ずる事は無いと信じております。従って前記の通り明瞭な『陽性反応』を示しませんでしたので大胆な表現は避けて『不詳』と云う表現を用いて鑑定した訳です。」と記載されていること、右記載によれば、本件シャツに付着している汚斑は血痕ではあるが、人血とは断定しえないこと。
 ㈥ また、捜査嘱託に対する回答によれば、〔丙3〕、平嶋侃一の両名は、本件白靴に血痕が付着していることは証明しえなかったとしながらも、一応人血反応をも検査し(その結果は疑陽性ではないかと認められる状態であった。)、さらに血痕以外の他の何ものかが付着してはいないかとの深慮から、念のためABO式による血液型検査まで実施したことが窺われるのであるから、本件白靴に関する右態度から推して、本件白シャツについても最も疑わしい汚斑につき十分な検査を実施したものとみうるのであり、他に一見して血痕様の汚斑が存するにもかかわらず、これを看過して、それについては検査を実施しなかったであろうことなど およそ考えられないこと、しかし て、右鑑定の対象となった本件白シャツの付着物は、血痕様の褐色汚斑であったこと。
 ㈦ ところで、科捜研においては、前記本件白靴や本件白シャツと同時に、被害者である松永夫人の血液(犯行現場の畳に付着していたもの)及び被疑者である原告隆の血液についても鑑定がなされたが、その血液型はいずれもBM型であったこと、そのため捜査本部では、右結果が一応判明した同年九月中ころ、松木医師に右両者を識別する方法がないものかを相談し、その結果Q式血液型検査を試みることになったこと、松木医師は、検査に必要な血清を東北大学法医学教室から譲り受けたうえ、これを使用して、まず畳に付着していた被害者の血液と被疑者の生血につき検査したところ、被害者の血液型はQ型、被疑者のそれはq型であることが判明したこと、その後同年一〇月ころ、科捜研から返還されてきた本件白シャツにつき同様の検査を行ったところ、本件白シャツ付着の血痕はQ型と判明したこと、このとき血痕試験、人血試験などの他の検査は実施しなかったこと、しかしながら、右検査は、本件白靴に関する松木鑑定と同様、正式の鑑定としてなされたものではなく、随時捜査当局からの要請に基づき、当りをつけるために予備的な検査としてなされたものであったため、松木医師は、本件白シャツについてはさらに東北大学医学部法医学教室に鑑定を依頼するよう捜査当局に進言したこと。
 ㈧ 弘前市警察署長は、同月一七日、東北大学医学部法医学教室の三木敏行助教授に本件白シャツ外二点の鑑定を嘱託したが、その際の鑑定事項は、⑴被疑者の血液型、⑵本件白シャツに付着している人血につき血液型はQであるかqであるか、⑶畳床藁(被害者の血液が多量付着して凝固したもの)につきその血液型はQであるかqであるか、というものであったこと、三木助教授は、同日から同月一九日まで鑑定をなし、⑴被疑者の血液は BMq型に属する、⑵本件白シャツにはQ型の血液が付着している、⑶畳床藁にはQ型の血液が付着しているとの結論を得、その旨記載した鑑定書を提出したこと、検察官沖中益太は、同月二〇日ころ、右鑑定書を得て、同月二四日、原告隆を殺人の罪で起訴したこと。
 ㈨ 松木明・〔丙〕作成の昭和二四年一〇月一九日付鑑定書には、鑑定結果として、本件白シャツに付着している斑痕は人血であり、その血液型はABO式において はB型、Q式においてはQ型であると記載されている一方、鑑定が同月一五日付嘱託に基づいてなされ、同月一九日付で鑑定書が作成された旨を記載されているが、これは事実とは異なること、すなわち、実際には前記㈡、㈦説示のとおり、同年八月二三日ころ(本件シャツに付着していた斑痕の人血およびB型に関する検査)と同年一〇月ころ(Q型に関する検査)の二回にわたって行なわれた鑑定結果をさも一回で行なった如く記載したものであること、そして、そのような鑑定書が作成されるに至ったのは、前記1㈥説示の経緯に基づくこと、右鑑定書の鑑定主文㈠ないし㈢によれば、斑痕ロ点も血液で、しかも人血であり、その血液型はBQ型であるというのに、同鑑定書添付図参のロ点に関する説明では「血液人血Q」と記載されているのみ