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三四囘に過ぎざれども、每囘議項出で、議論蜂起す。既往猶然り。未來想ふべし。而して議する所の要領を得ざるは、一に會則の不倫に本づく。今一例を擧げんか。大和會は從前每次集會費を集めて計算す。譬へば宵越の餞なき江戶兒の如し。有森子前度の提議にして行はれ、大和會財產あるに至らば、其取扱は會則もて定めざる可からず。是れ議事の最重大なる者にして。會則に關する事項なり。有森君の提議は會の財產に名づけて資本金となす。人或は嘲りて曰く。是れ會をして商業に從事せしむるに似たりと。葢し資本とは「フオン」(Fond) の義なり。何ぞ必ずしも認めて商業となさん。又會則を見るに、幹事あれば議事を須ゐずと云ふ說の虛なるを證するに足るものあり。曰く。幹事は事務を管理す。決定すと曰はず。決定して而後に施行し、施行して始て管理の要を見る。而して決定は議事の結果なり。以て會則の議事の必要を認むるを知るに足る。或は又曰はん。幹事に決定を委托せば、議事の繁を免れんと。委托に二あり。悉く委托すると、事に依りて委托し事に依りては又委托せざるとなり。後者は議事に待つことあり。其繁一なり。又悉く委托せんか。是れ本會の根抵を撼搖するなり。本會員は皆同等にして、幹事は唯ゞ會の旨を承けて執行す。此同等の秩序は悉皆委托の法と並立せず。若し悉皆委托の法行はれて、彼秩序乱れんか。會員は幹事の制御を蒙むるに至ること必せり。卽ち一たび幹事を撰むときは、其任期間はこれに制御せらるゝなり。而して會はこれを禁ずること能はず。是れ彼の箒を役する術士の說なり。聞說らく。獨逸國の諸會其幹事に主權あるが爲めに敝を受くること少からず。學術上の會尙然り。是れ千八百四十八年以來の諸會社の國會を摸倣せる餘禍なり。大和會にして復たこれを襲かば、識者の笑を奈何せん。會の某事を幹事に委托するは可なり。唯ゞその委托の區域は隘からんことを要す。區域彌〻隘ければ、會議の項目彌〻繁なり。是れ勢の止むことを得ざるなり。故に曰く。本會に議事あるは當然なり。宜しく懇親と分立せしめて、以て彼此相害ふことなからしむべしと。此議にして行はれば、須らく先づ議事規則を設けて、彼不備の會則を再閱すべし。敢て言ふ。

二十七日。夜與倉獸醫とトヨツプフエル氏客館に語る。

二十八日。石君とコオレルを訪ひ、隊附事務を學ぶが爲めに、普魯士の軍隊に入らんと欲する事を話す。