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Palaeontologie を修むとぞ。瘦小にして色黑し。洋服にて日本風の禮を行ひ、隣席の人々を驚かしたり。

三十一日。原田直二郞マリイを携へてミツテルワルド Mittelwald に赴く。避暑兼ねて景を寫さんと云ふ。三浦守治伯靈より至る。別後の情を話す。

九月一日。三浦と宮廷釀家 Hofbraeuhaus を訪ふ。

二日。午前十一時より三浦とスタルンベルヒに游ぶ。舟を泛ぶ。

望斷鵠山城外雲。詞人何事淚紛々。艙窓多少綺羅客。不憶波間葬故君。

又詩各〻一首を作りて路易二世と侍醫屈顚とを詠ず。

當年向背駭群臣。末路悽愴泣鬼神。功業千秋且休問。多情偏是愛詩人。 路易二世
埋骨烏湖万頃波。烱心高節動人多。平生著作足千古。別有一篇狂婦歌。 屈顚

レオニイ Leoni にて舟を下り、小憩す。郵便局あり。端書を永松篤棐に寄す。

渺茫烟水接天開。鷗鷺眠邊醉倚臺。湖上風光無限好。扁舟憐汝不同來。

又纜を解いてスタルンベルヒに歸る。舟中日暮れたり。賦して三浦に示す。

相逢不忍還分手。一去從斯路更賖。日落波間遠巒歿。只餘離恨滿秋湖。

三日。三浦リンダウ Lindau に向ひて發す。送りて發車塲に至る。三浦別に臨みて歸鄕後千住の居を訪はんことを約す。此夕獨り汽車に上り、スタルンベルヒに達し、拜焉客舍 Bayerischer Hof に投じたり。殘暑を避け、兼ねて著述する所あらんとするなり。初夜湖畔を逍遥す。岸の常夜燈に夏蟲の幾萬となく集れるを見る。

四日。水に枕める石級上に朝餐す。蒸餅の餘れるを投ずれば雀許多來り啄む。日出の景色えも言はれず。舟にてレオニイに至り、此に午餐す。夜天陰る。星處々に見ゆ。太だ凉し。

五日。此處は汽車の往復繁く。喧しきことミユンヘンの居より甚しければ、便船してレオニイに赴き、「レオニイ」客舍 Gasthof Leoni に投ず。湖畔の小園、栗の木