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第六章 禮儀

 外人の我邦に來り遊ぶもの、嫻雅禮節を以て日本人の特性なりと稱せざるは無し。禮若し俯仰折旋の儀容に過ぎずとせば、乃ち以て德とするに足らず。禮は人の感情を察する同情の發現にして、又た尊きを尊び、秩序ある社會の許認する地位を敬ふの意を有す。而して其地位とは貧富の別に基くものゝ謂に非らず、人の誠に有する効績德業の差等の謂なり。

 禮の極意は愛に庶幾し。されば予は爰に寅んで、彼の聖語の一字を更へて、『は寛忍をなし、又た人の益を圖るな