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けり。(いろは文庫)
彼の短命詩人ケルネルが戰塲に傷ついて、『絕命詩』を賦したるの壯烈事は、吾人の感歎景慕する所なり。然るに、斯の如きは、我國古來の戰に於て决して稀なりとせず。特に和歌俳諧の簡潔にして遒勁なる、物に觸れ、事に感じて咄嗟の間、其興趣を寓するに甚だ可なるものあり。されば苟も多少の文藻あるものゝ、詩歌を詠じ、俳諧を弄せざるは無かりき。戰塲に馳する武夫のしばし駒を止めて、矢立取り出し、歌を書きつらぬるもあれば、如意輪堂の扉に、梓弓引きて返へらじの誓を殘せし忠臣もあり。勅選に一首を留めて、西海に沒落したる勇士あれば、又た戰場の露と消えにし益荒雄の、主無き兜、鎧の胸當に詠草を藏めたるあり。實にや