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Page:Bushido.pdf/92

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猛き心を和げ、思を腥風血雨の外に馳せしむるものなりき。希臘の史家ポリビアスの傳ふる所によれば、徃古アルカヂアに於ては、其嚴慄なる風土の峻峭なる性情を賦與するを融和せんが爲、國法として三十歲以上の男子に課するに音樂を以てしたりと云ふ。而して史家は彼の荒凉なるアルカヂア山國の人民の、能く殘忍の性より免れたる所以のものは、一に此れを音樂の賜なりとせり。

 凡そ我國到る處として、武士を敎ふるに溫雅の質、優美の性を以てせざるは無かりき。薩藩の如きは僅に其一例たるに過ぎず。白河樂翁公の、心に映るまゝを、そこはかと無く婉なる筆に記したるが中に云へることあり、『枕に通ふとも、咎無きものは、花の香、遠寺の鐘、霜夜の蟲の音は殊に哀