Page:Bushido.pdf/87

提供:Wikisource
このページは検証済みです

 凡そ國の東西を問はず、各〻武士が以て名譽の律法とせるものには、其規矩凖繩を等しうするものありき。換言せば、頗る他の誹譏を招ける東洋の道德思想が、歐洲文學に於ける莊重なる格言と、符節を合するものあるは、盖し驚くに足るべきなり。人あり若し日本の士人に示すに、彼のヴアヂルが羅馬建國の精神を歌ひて、

順ふ者を安んじ、逆ふ者を挫きて、
平和の計を定むるこそ、これぞ汝の業なれ。

と云へるを以てせんか、彼れ或は直ちにマンチユアンの詩聖を目するに、皇國文學の精粹を剽窃するものとなす勿からん乎。神功皇后が征韓の軍令にも曰はずや、『姦謀勿聽、自服勿殺』と。