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第四章 勇氣敢爲堅忍の精神

 勇若し義に由らずんば、即ち德たるに値ひせず。孔子は論語にて、其常とする、消極よりして、勇の定義を下し、『見義不爲無勇也』と說きしが、之を積極に換言すれば、則ち『義を爲すは勇なり』となる。危を求め、命を殆くし、死の口に馳する事、人の或は之を以て勇に擬するあり。武人の如きは、誤つて沙翁の所謂『庶出の勇』たる暴虎憑河、死而不悔者を賛すと雖、獨り武士道は然らず、死すべからずして死するを犬死と賤めたり。水戶の義公はプラトーの名さへ耳にせざりき。されば此哲人が勇を稱して、『恐るべきものと、恐