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し、上代の制度自から廢れ、勇猛膽大の徒は、犁鋤を投じて、弓矢を執り、行伍に列したり。而も其間亦た淘汰の行はるゝありて、懦夫弱輩は自から排斥せられ、エマソンの語を借りて云へば、『膂力勇敢、剛膽不敵なる粗野漢』のみ適存して、遂に『さむらひ』なる一種の門族階級を成したり。斯て彼等は多大の名譽と特權との寵遇を受くると共に、又た多大の責任あるを自覺し、乃ち各自の態度行爲を律すべき規準法度を要とするに至れり。况んや彼等の干戈を交へ、矢石の間に見ゆるを常とせしより、其要を感ずること、更に深甚なるものありしをや。譬へば醫士が其德義たる醫戒を守りて、競爭に制限を置き、狀師若し同業の德義を破らんか、自から名譽の法廷に被吿たらざるべからざるが如く、武士にし