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Page:Bushido.pdf/224

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 木村重成の妻は、自刄するに臨み、其夫に遺書して曰く、

一樹の蔭、一河の流、是れ他生の緣と承り候にこそ。そもをとゝせの比よりして、偕老の枕をなして、只だ影の形にそふが如く思ひまゐらせ候。此頃承り候へば、此世限りの御催し、かげながら嬉しく存じまゐらせ候。唐土の項王とやらんは、世に猛き武士なれど、虞氏の爲に名殘を惜み、木曾義仲は松殿の局に別を惜みしとやら、されば世に望窮りたる妾が身にては、せめては御身御存在の中に最後を致し、死出の道とやらんにて待ち上奉り候。必ず必ず秀賴公多年海山の鴻恩御忘却なきやうたのみまゐらせ候。

 婦女の、良人、家庭及び族人の爲に、其心身を奉ずるは、男子