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Page:Bushido.pdf/212

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刀でも、ひどく丈夫に結へて、決して拔けないやうにしてあつた。人に斬られても、こちらは斬らぬと云ふ覺悟だつた。ナニ蚤や虱だと思へばいゝのさ。肩につかまつて、チクリと刺しても、たゞ痒いだけだ、生命に關りはし無いよ。(海舟餘波)

 武士道の敎訓を服膺して、艱難疾苦の爐中に精鍊を經たるものに非らざるよりは、安んぞ能く此言を成すを得んや。俚諺にも『負くるは勝』とて眞の勝利は暴人に校せざるに在るを云ひ、又た、『血を流さずして勝つを以て、最上の勝利とす』と誨ふるものは、即ち武士道極致の理想の、平和に存するを證せり。

 然るに此大理想を擧げて、僧侶及び道德家の說法釋義に