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と雖、自から曾て其刄に衅ることをなさゞりき。伯晚年一友の爲、其特癖ある平民的口調を以て、徃時を談じて云へることあり。

私は人を殺すのが大嫌ひで、一人でも殺したものは無いよ、みんな逃して、殺すべきものでも、マアと言つて放つて置いた。ナニ、蚤や虱は殺すから、さう思へば善いのだが、殺人は極嫌ひだつた。それは河上玄齋が敎へてくれた、『あなたは、さう人を殺しなさらぬが、それはいけません。南瓜でも茄子でも、あなたは取つてお上んなさるだらう。あいつ等は、そんなものです』と言つた。それはヒドイ奴だつたよ。然し河上は殺されたよ。私が殺されなかつたのは、無辜を殺さなかつた故かも知れんよ。