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は、神社又た家庭の、刀劍を崇めて禮拜すべき神體となせるもの少からず。凡作の短刀も亦た之を蔑にせず。刀を賤むるは即ち其主を侮辱する所以にして、床上の刀を越ゆるの輕忽をなすものあらば、禍直ちに其身に及ぶ。

 刀は尊貴なるが故に、自から美術家の伎倆、主人の虛榮の之に伴ふあり。世泰平にして、佩刀の、僧正の錫杖、帝王の玉笏と擇ぶ所無きの日に在りては、殊に其の然るものありき。柄には鮫皮絹糸を卷き、鍔には金銀を鏤め、鞘には五彩を抹漆し、燦煥の美は反つて刀刄の威を奪ふものあるがごとし。されど其外飾は啻に翫具たるに過ぎざるのみ、刀身の眞價は曾て增减あること無し。

 刀匠は啻に工人たる者に非らずして、反て天意感通の美