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鈍刀にもせよ、常に眞劍を佩き、擬刀を投じ、而して新たに得たる刄よりも更に銳き喜悅の情を以て、踊躍奮然其尖端を木石に試む。齡旣に十五歲、成人の域に達するや、自由の行動を許さるゝを以て、今や腰間鐵斷つべきの秋水に誇ると共に、身に兇器を帶ぶるが故に、乃ち責任の觀念、自重の態度を生ず。彼は『漫に劍を携へず』。帶に挾めるは、心に佩びたる忠義、名譽の象徵なり。身邊甞て大刀小刀、(刀、脇差)の二劍を放たず。室に在りては、書齋、床間を飾り、夜は主人の枕頭を護る。常住不斷の伴侶なるが故に、即ち之を愛翫し、呼ぶに寵稱を以てす。之を尊敬するよりして、殆ど之を崇拜す。史學の祖ヘロドタスはシシアン民族の鐵製偃月刀に犧牲を捧ぐるを一奇聞なりとして記述すと雖、日本にて