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Page:Bushido.pdf/204

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に至らん。されど自殺論の著者モルセリー敎授は、必ずや切腹を以て、自殺の貴族的なるものとなすに同意せん。氏曰く、苦痛劇甚なる方法により、又た長時の苦悶を生ずる自殺は、百中九十九まで狂信、發狂若くは病的刺戟によりて精神錯亂せるものゝ行爲なりと認むるを得べしと。然るに尋常なる切腹は狂信、錯亂、又は發奮の片影をも存せず、却つて冷靜サンフロアの極、始めて能く之を行ひ得て其美を稱せらる。ストラハン博士は自殺を分つて合理又は假似なるものと、不合理又たは眞正なるものとの二種となせるが、切腹は即ち前者の最好例なりと云ふべし。

 此等の慘憺たる法度より見るも、亦た武士道の常經より見るも、刀劍の具の武士社會の修練と生涯とに、必須の任務