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Page:Bushido.pdf/197

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ことの無き侍は、まさかの時に逃げ隱れするものなり』と云ひ、又た『一たび、心の中にて死したる者には、眞田の槍も、爲朝の矢も透らず』と。此等の語は、盖し吾人をして『我が爲に生命を喪ふ者は、之を得べし』と云へる大工匠の建てたる殿堂の門に近邇せしむるものに非らずや。世には基督敎と異敎徒との間に一大障壁を築くに銳意するものありと雖、奈何せん此等の訓語は、宇內人類の凡て道德的一致の點を有するものなることを例證すべき、九牛の一毛に非らずや。

 吾人は旣に切腹てふ武士道制度の、之を一見すれば、或は其妄なるに驚くことあるべしと雖、其實決して悖理蠻野の弊習に非らざるを知れり。吾人は今爰に切腹と姉妹の制