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閉したる第七圈ばかり、日本人の多數に誇るものはあらざるべし。

 されど眞の武士は死を急ぎ、死に阿るを以て共に怯懦なりとしたり。武士の龜鑑として世に傳へらるゝ勇士は、數度の戰塲に臨んで、曾て利あらず、山野に逐はれ、森林に遁れ、洞穴に潜み、果ては陰暗なる空木の窩に、一人餓に苦しみ、刀鈍り、弓折れ、矢盡きぬ――羅馬人の中にて最も高邁なる丈夫もかゝる時、フイリピの野に、己が刄に伏したるに非らずや――されど此勇士は死を怯なりと賤め、基督敎殉道者にも似たる大勇を奮ひて、口ずさむらく、

憂き事のなほこの上に積れかし
   限りある身の力ためさん。