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の前には、床上三四寸の座席を設け、新疊を布き、紅毛氈を廣げたり。高き燭臺は程能き間に並びて、異樣の薄暗き光を放ち、先づは今日の仕置を見るに足れり。七人の日本檢使は、高座の左方に在り、七人の外國人は其右に在り。他には又た一人をも見ず。

 やゝ暫く待つ程に、多紀善三郞は徐々と步み出でたり。此人當年三十二歲、氣品高尙に、身には禮服たる麻𧘕𧘔を折目正しく着なせり。後には一人の介錯と、金絲の刺繡ある陣羽織を着たる三人の役人隨ふ。介錯とは英語に之を譯すべき文字あらず、エキセキウシヨナーとは自から異なり、士人之に任じ、多くは咎人の親戚、又たは友人より簡拔す。而して兩者の關係は、咎人と劊手とに非らず