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は、彼のカトー・ブルタス・ペトロニアス其他古代の俊豪の、自から此世の生命を喪ひたる、其莊高沈重なる態度を見て、現はに、之を賞揚すること無しとすとも、尙ほ且つ此れが美觀に恍惚たるを云ふもの必ずや少からざるべし。哲學者の始祖の死も亦た半ば自殺なりと云はんとせば、此れ果して過言なるべき乎。其門弟子よりして、其師が逃走の機會を避け、自から道義上誤謬あるを認識せる國家の命令に服從して、己が手に毒杯を取り、而して先づ其毒液を注いで神明に捧げたるの狀を審かにするの時、ソクラテスの所行態度は、凡て此れ自殺の行爲なるを認むべきに非らずや。尋常の處刑に於けるが如く、縱令肉體の窘迫なかりしにもせよ、法官の命令は正しく窘迫にして、『汝は死すべし――己が