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靈魂の腹に宿るとしたる日本人の信仰を是認するものなり。『腹』なる語は、希臘語の『フレン」(phren)若くは『ツーモス』(thumos)よりも意義更に深長にして、而して日本人も希臘人も共に、人の精神は、身體の此部分に存するものなりと思料したりしなり。此の槪念を有せることは、啻に古人のみにあらず。佛國人は、自國の大哲學者デカルトが、靈魂は腦髓の松子腺に在りと唱へたるに拘らず、尙ほ依然として、解剖學上よりせば極めて漠然たれど、生理學上よりせば、意義判然たるヴアントレ(ventre)即ち腹部の文字を取りて、主として勇氣の義に於て使用す。又た此と等しく佛國語にては、アントライル(entrailles 腹部――愛情)を、愛情憐愍の義に用ふ。而して此の信仰は、單に迷信に基くものにあらず、却