Page:Bushido.pdf/173

提供:Wikisource
このページは検証済みです

下の未だ、『怨言せずして、寧ろ耐ふることを學べ』との尊貴なる綸言を垂れさせられざるに於て、日本人心は夙に此の諭誥を服膺したるものなり。

 然り、日本人は、其人性の弱點の、酷烈なる試練を蒙るに當りてや、必ず、其笑癖を現はし來る。吾人は彼の笑の哲人デモクリタスにも優りて、笑癖を有するの理由を持す。憂苦悲愁の爲に性情を惱亂せらるゝの時、往々にして笑ふことあるは其性情を平靜に復せしめんと勉むるを隱くすものたり。笑は悲哀憤怒を抑へて、心の平衡を得しむるものなり。

 夫れ斯の如く、人の必ずや、其情感を抑制せんと勉むるが故に、又た其情感は簡潔なる詩句歌什の安全瓣を通じて漏