第十一章 克己
勇の鍛鍊は、事に耐へて呟かざるの精神を與へ、禮の敎訓は、我が悲哀苦痛を露はして、他人の快樂安靜を害ふこと勿からしむるにあり。この二は相合して、人の心に生ずるにストイツク流の克己性を以てして、遂には假現(アパレント)のストイツク主義を表せる一種の國民的性格を形成するに至りたり。予の之を假現のストイツク主義と謂ふものは、眞のストイツク主義の、决して一國民全般の特性を成し得べきものに非らざるを信ずるが故にして、又た我國民の態度習慣の、外人の目に映じて或は無情冷酷なるの觀を呈すべきが故な