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ペンサーを誤解せる學徒の好趣なる反動を誘起して、我國思想界を惑亂したることあり。至尊は無二の忠誠を以て仕へらるべきものなることを唱導するに熱心なるの餘、此輩は基督敎徒を責むるに、其神其主に奉信を盟ふが故に不忠不臣に偏傾すとしたり。彼等は詭辯學者ソフイスツの巧智を缺ける辯論を衒ひ、煩瑣學徒スクールメンの精緻を失へる煩瑣の理法を弄して、而して、人は一理より推せば、『シイザルの物はシイザルに歸し、神のものは神に歸し』、而して、『此れを親み彼れを疎ずること無くして、二人の主に兼ね仕ふることを得る』ものなるを曉らず。ソクラテスは何如。其の誠心デーモンに奉ずる忠節の一片だに、之を捨つることを拒否して懼れざりしと共に、又た忠實冷靜にして、此世の主たる國家の威命に甘從