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Page:Bushido.pdf/149

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此語を聞いて曾て異常の感を爲さず。盖し斯の如きは古へより武士道の唇頭に上りたるの語にして、唯だ彼に在りて律法と云ひ、國家と云へるもの、我に在りては、形を異にして人格を云ふの差ありしのみ。忠節とは、此政治理論の產みたる倫理なり。

 予も亦たスペンサー氏が政治上の服從即ち忠節は、過渡的作用を賦與せられたるものなりとの說を耳にせざるに非らず。夫れ或は然らむ。されど一日の德は一日にて足れり。吾人は此語を反覆して、自から歡びとせん。况んや、其の一日とは、我國歌の所謂『さゞれ石の巖となりて、苔のむすまで』の長き歲月を云ふものなるを信ずるをや。是に於て吾人は、彼の平民的なること英國人の如くにして、尙